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将来計画及び運営方針 分子研リポート1999 | 分子科学研究所

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5.将来計画及び運営方針

はじめに:

分子科学研究所が1975年に岡崎の地に設立されてから25年が経過した。四半世紀を経た現在,分子科学をめぐる状 況は大きく変化している。設立以来,分子科学,つまり分子と分子の集合体の基礎科学は,我が国における科学・技 術の発展において重要な一翼を担い,分子科学研究所は様々な研究成果によって新奇化学反応の開発と物質創製の科 学の拠点として目覚ましい発展をとげ,世界的にも「IMS」の略称で広く認知された存在となっている。その結果,分 子レベルでの科学は,生命科学や環境科学を含む多くの周辺分野に浸透し,幅広く普遍化した概念となっている。言 い替えれば,分子科学研究所は「分子レベルの科学の拠点」としてさらなる新しい展開を行うべき大きな責任を担っ ていると考えられる。つまり,分子科学研究所は,21世紀の分子科学への新たなる道筋を開拓し構築する責任を持っ ており,「高等学術研究機関」として先導的研究を国の内外と協力して実施する共同利用研究機関と位置付けることが 適当であると考える。そのためには,平成10年10月に行った分子研研究会「2010年の分子科学を語る」においても議 論された様に,分子研にとって最も肝要な事として,既存の分野にとらわれずに優れた人材を,幅広く求め,新しい 分野・学問を開拓して分子科学の国際的拠点としてさらなる飛躍を行うことが現在の分子科学研究所に求められてい る。世界は日進月歩で進歩しており,常にその先を見据えながら世界の科学・文化の指導的立場に立つ研究機関とし て,重い責任を果たすべく優れた研究環境と組織を再構築し未来を目指すことが必要である。

この度,岡崎国立共同研究機構は,平成12年度の概算要求に基づき「統合バイオサイエンスセンター」を中心とし た機構共通研究施設をE地区に設立することが認められ,生命科学の分子レベルからの新しいパラダイムを岡崎に構 築し,世界に発信することを目指す場を確立した。分子科学研究所は,この「統合バイオサイエンスセンター」の運 営の責任を分担し,支援して行くと共に,それとの交流・協力を通じて,分子科学の柱の一つである「新奇物質創製」 の新展開をE地区で実施する。B地区においては,E地区との連携をとり「物質創製」の一翼を担いつつ,「光分子科 学」及び「化学反応ダイナミックス」に力点をおいて新しい研究を推進する。また,分子科学研究所電子計算機セン ターは,従来の分子科学計算は無論のことであるが,複雑系としての生命体科学計算をも視野に入れた機構共通の研 究基盤施設として改組再編する。

上述した通りの理念と使命を胆に銘じ,21世紀にあるべき分子科学研究所の先導的立場を所内において議論し,2 月に分子科学研究所将来計画委員会において以下の様な将来構想の大枠を纏めた。

物質分子科学の新展開:

分子科学研究所での新奇な物質創製の中核をなす分子物質開発研究センター,相関領域研究系,錯体化学実験施設 は,E地区において統合バイオサイエンスセンターと協力しつつ,物質創製の新概念を提案する立場で新しい物質分 子科学の展開を計る。そのために,これらのグループ間での密接な共同研究体制が必要不可欠であり,それに伴う諸 設備の充実が望まれる。特に,新奇物質開発の要となる分子物質開発研究センターの新しい企画を強力に推進して行 く必要がある。

光分子科学の新展開:

「光の世紀」と言われる21世紀の分子科学にとって,分子科学研究所が有するユニークな極端紫外光実験施設と分子 制御レーザー開発研究センターは極めて重要な役割を演ずる。時間幅,エネルギー幅,強度,波長,位相等のあらゆ

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る面で優れた可能性を持つレーザーを開発・活用して分子科学の新展開をもたらし,将来のフォトニクス科学等への 貢献を行うことが求められる。また,分子科学固有の極端紫外光実験施設を持つ分子科学研究所は,「地球上の自然に ない光」である極端紫外光をふんだんに利用し,光科学の新局面を開拓する可能性を秘めている。現在の施設を有効 に高度化しつつ,世界に類を見ないユニークな「分子科学専用」のこの施設を活用しレーザーとの相補性を活かして, 高励起状態の光分子科学,内殻電子励起による状態選択反応,新奇なナノ構造の生成等,基礎から応用までの分子科 学の新しい分野を作り出す事は現在緊急に必要とされている。

レーザー分子科学に関しては,分子制御レーザー開発研究センターが要となって新規企画を強力に推進していく必 要がある。一方,現有極端紫外光実験施設の「高度化計画」は,施設の老朽化を考えた時,分子科学研究所将来計画 の中で最優先課題として推進して行く必要がある(5-2 参照)。

化学反応ダイナミックス研究の新展開:

分子科学研究所は,日常世界の有為転変の根源である化学反応を,その根本原理から解明し,新規反応を開発し,そ れを制御する方策を探索していく事の出来る施設と優れた研究者を備えた特徴ある研究機関である。化学反応の自在 な制御は21世紀の重要な課題であり,光分子科学及び物質分子科学との有機的連携の下に,また分子制御レーザー開 発研究センターとの密接な協力の下にこの夢の科学を推進して行かねばならない。

共同研究の活性化:

分子科学研究所は,共同利用研究機関として,国の内外の研究者との共同研究や交流などによって多大な成果を挙 げている。インターネットを通して研究情報を瞬時に交換している現在において,共同研究に国という垣根はあって はならない。あらゆる国の研究者との交流と共同研究が自由に行える拠点として分子科学研究所を位置付けうるかと いう事は,共同利用研究機関としての分子科学研究所の今後を決定する重要課題である。我々は「国際共同研究拠点」 としての分子科学研究所を強く指向する。21世紀の世界において,アジアでの科学技術の発展はグローバルな視点か らも必要不可欠なものである。わが国は欧米との接点を持ち,アジアの一員としての立場から,アジアの科学技術の 発展に深く関り,それへの協力と支援を行うことが求められている。

これらの視点から,分子科学研究所は多国間に跨る垣根のない交流と協力を行う拠点となることを提案するもので ある(5-4 参照)。

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5-1 電子計算機センター 現状と将来構想

5-1-1 過去と現在

分子科学研究所・電子計算機センターは1978年に設立され,今日に至っている。2000年4月より,岡崎国立共同研 究機構・計算科学研究センターに改組される。電子計算機センターは日本全国の分子科学研究者に大規模計算を実行 する環境を提供する計算機センターとして設立され,22年を経た今日においても所内外の分子科学研究の基盤施設と しての重要性は変わらない。実際,「分子研リポート’ 94」 に報告されている通り,外部評価委員,運営委員,所内外 の利用者の多くは,本センターが分子科学理論計算分野へ貢献してきた歴史的経緯を高く評価しており,当初の目標 を高い水準で達成できていることを認めている。

この22年間にセンターの計算機の性能・記憶容量は大幅に増強され,インターネットの普及により利用形態も大き く様変わりしている。図1はセンターに導入された計算機のCPU能力(理論ピーク性能)を年度別に示したグラフで ある。分子科学計算に必要な計算

処理の需要は年々増加の一途をた どっている。1995年以降,従来か らの計算機借料を汎用計算機借料 とスーパーコンピュータ借料に分 割した。この分割によって,より性 能 の 高 い 新 型 機 種 を 導 入 で き る チ ャ ン ス と , 計 算 機 ア ー キ テ ク チュアの多様化に迅速に適応でき る計算機構成となった。2000年3 月末から稼動を開始するスーパーコ ンピュータ(富士通 V PP5000 と S GI Origin2800),そして汎用高速演算 システム(日本電気製 S X -5 と IB M 製 S P2)の総合性能は,1979年1月 に初めて導入された日立製作所製 M - 180(2台)の実に13500倍に 至っている。また図2に示すよう に,性能の大幅な増強に加えて,記 憶容量は主記憶メモリで約70000 倍,ディスク容量で約1300倍に増 加している。この間,計算機アーキ テクチュアも,単一CPUのスカラ 型からベクトル型へ,その後,複数 CPUを有するスカラ及びベクトル

並列型の混成システムとなった。また複数CPUにおける主記憶メモリへのアクセス機構も分散型,共有型,分散共有

年度毎の性能比較(MF L O P S )

1 10 100 1,000 10,000 100,000 1,000,000

1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 年度

MFLOPS

年度毎のメモリ、磁気ディスク容量(拡張記憶を含む)比較

1 10 100 1,000 10,000 100,000 1,000,000

1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 年度

MB

メモリ(MB ) ディスク(G B )

図1 電子計算機センターにおける C P U 能力の増強

図2 電子計算機センターにおける記憶容量の増強

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型等へと高度化及び複雑化している。

分子科学計算の計算機利用分野においても多様化が進んだ。設立以来,初めてベクトル型スーパーコンピュータが 導入された1986年以前までは,全CPU資源の60∼70%程度が電子状態計算分野に利用されてきた。1986年,日立製 作所製 S -810 ベクトル型計算機の導入に伴い,分子動力学,量子反応動力学などの動力学分野での計算機利用が増え, その後ベクトル型計算機としては,同 S -820,日本電気製 S X -3,S X -5 へと更新され,今日においてもこの傾向は続い ている。今後の計算機利用においては,ベクトル並列計算方式や分散共有メモリ機能を最大限に活用できるような,新 たなソフトウエアが開発され,例えば電子状態計算と動力学計算を融合したアルゴリズム等,媒質との相互作用をも 精密に取りこんだ電子構造計算や生体高分子などへの新分野での応用が期待される。

現在の計算機システムは,スーパーコンピュータ NE C S X -3(3CPU),並列計算機 IB M 製 S P2(48CPU)が稼動し ており,昨年度の汎用高速演算システムの更新により日本電気製 HS P(2CPU)が同 S X -5(4CPU,32GB)に更新さ れた。また C PU 能力を増強するために施設運営費によって日本電気製 HPC (2CPU),日立製作所製 S R 2201(16CP U)が導入されている。前述の通り,まもなく S X -3 は富士通 V PP5000(30CPU)と S GI Origin2800(256CPU)から 成るシステムに更新される。過去6年間に導入され利用されてきた計算機が,実際にジョブ処理のために稼動してき た時間を年度毎の1CPU当たりの月平均ジョブ処理時間として図3に示した。本センターでは,年間を通じて定期保守 及び障害対応時間以外1日24時間体制の 運用を行っており,1ヵ月の通電時間は 約700時間であることから500時間(稼働 率70%)を越える運用は,利用者から見 た場合には,待ちジョブが並ぶ高負荷状 態である。48CPUから構成される S P2は 約半数のC PUが並列ジョブクラスに割り 当てられているため1CPU当たりで平均 すると,他の逐次処理を主体としたベク トル計算機に比べ,ジョブ処理時間は高 くはない。

それぞれの計算機は導入以降,徐々に 利用率が増加し2・3年後にピークを迎 えている。S X -3,HS P については利用率が80%以上にも達し飽和状態を経験している。導入当初は個々の計算機に適 したソフトウェアへの移植作業を行うなどジョブ処理以外での利用も含まれ,ソフトウェアの完成度が高まり,利用 者が新しい計算機に慣れるに従い,より大規模な計算処理を要求することがグラフから覗える。逐次処理コードから の並列化が比較的困難な分散メモリ型計算機(S P2)では,ソフトウエアの移植(並列化)が行われたとみられる時期

(1997年度)での利用率の上昇は著しい。導入から2・3年後に利用のピークに達した計算機は,さらに大規模な計算 処理を多数要求されるが,計算機資源に限りがあるため常時待ちジョブが並ぶ状態が長期にわたると利用率は徐々に 低下してゆく。スーパーコンピュータに比べてワークステーション等の小型計算機の開発期間が著しく短いため,最 新鋭の計算機が利用者の研究室に導入されることも,グラフが右肩下がりとなる要因の一つと考えられる。従ってセ ンターでは,利用のピークを迎えた時期から2・3年以内に次期の更新によるCPU能力の増強を行い,研究室では実 行が困難な(または不可能な)計算処理の要求に迅速に対応してゆくことが必要である。

1C P U当たりの平均処理時間

0 100 200 300 400 500 600 700

1994 1995 1996 1997 1998 1999

年度 時間

SX-3/34R HSP SP2 HPC

図3 過去6年間のCPU利用状況

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1997年度,文部省に概算要求をしていたスーパーコンピュータ借料の増額によるCPU能力の増強は認められなかっ た。また導入一時経費もつかないという厳しい結果となったため,外部委員を含む「スーパーコンピュータ検討小委 員会」の結論に従い,1999年1月に機種を更新することを断念し,スーパーコンピュータの更新を1年延期すること とした。これを補うべく汎用システムの機種更新を1年早め,1999年3月には最新鋭のベクトル並列計算機 S X -5 が導 入された。このように,汎用高速演算システムとスーパコンピュータシステムは,それぞれ中規模ベクトル演算と大 規模スカラ並列演算及びベクトル並列演算のように相補的なシステム構成としての位置付だけでなく,計算機の更新 時期を柔軟に調整する観点からも2システムから成る計算機構成は重要である。

File Server Compaq AlphaSever4100 5/600 Frontend

NEC TX7/K370 Fujitsu VPP5000 30PE 256GB

Peak 285Gflops 4TB Disk

SGI Origin2800 256CPU 256GB Peak 153Gflops 4TB Disk

NEC SX-5 4CPU 32GB Peak 32Gflops

IBM SP2 48node 8GB Peak 4.4Gflops CISCO

Catalyst 5500

図4 2000年4月以降の計算機構成

2000年4月以降の計算機構成を図4に示す。今回導入が決まったスーパーコンピュータシステムを図の左側に,昨 年度に更新を終えた汎用高速演算システムを右側に示す。新スーパーコンピュータシステムは,富士通製 V PP5000 と S GI 製 Origin2800 から構成される。V PP5000 は1CPU当たりの最高演算性能が 9.5 Gflops のベクトル演算装置 30 台か ら構成され,各CPUに8∼16GBの主記憶装置を持つベクトル並列計算機である。一方,S GI Origin2800 は1CPU当た りの最高演算性能が 0.59 Gflops のスカラ演算装置256CPUから構成され,CPU当たり1GBの主記憶をそれぞれのCP Uから共有メモリとしてアクセスが可能な分散共有方式の超並列計算機である。V PP5000では高速なベクトル演算能力 を活かした大型ジョブの逐次演算処理はもちろん,例えば8台以上のベクトル演算装置を使った大規模なベクトル並 列演算が可能となる。Origin2800 は Non Uniform Memory A ccess (NUMA )方式と呼ばれる論理的な共有メモリ機構 を有する。NUMA は主記憶装置が各CPUに分散して配置されているためCPUから主記憶へのアクセス速度が非等価で はあるが,利用者プログラムから大容量のメモリを容易に利用することが出来るため,大規模な並列ジョブの実行が 可能となる。昨年度,導入された S X -5 は1CPU当たり 8Gflops の最高演算能力を持つ共有メモリ型ベクトル計算機で あり,S P2 は分散メモリ型スカラ並列計算機である。これらの計算機の特徴を活かしつつ,利用者ジョブの効率的な実 行環境を構築することがこれからの課題である。

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5-1-2 岡崎共同研究機構・計算科学研究センターと分子科学研究所・計算機室

2000年4月には,分子科学研究所電子計算機センターは岡崎国立共同研究機構・計算科学研究センターに改組転換 される予定である。スタッフは,教授1,助教授1,助手2から構成されることになっている。しかし,定員増があっ たわけではなく,分子研から助教授1と助手1が,基礎生物学研究所(基生研)と生理学研究所(生理研)から各助 手1の定員が計算科学研究センターに振り替えられることになっている。

改組以前(現在)の岡崎機構内で電子計算機・情報ネットワーク関連のスタッフとしては,分子科学研究所電子計 算機センターには,理論系教授が兼任しているセンター長,助教授1,助手2,技官5(うち一人は所内情報ネット ワーク専任)がおり,また基生研には,培養育成研究施設・電子計算機室に助手1,生理研には,脳機能計測センター・ 生体情報処理室に助手1がいる。さらに基生研と生理研には計算機・ネットワーク関連の仕事をしている技官がそれぞ れ若干名いる。これに加えて数年前より岡崎機構全体の情報ネットワークの企画・管理・運営などを総括する助手が1 名採用されて,岡崎機構「情報ネットワーク管理室」に配属されている(組織上はこの助手の所属は分子研計算機セ ンターに属している)。

4月の改組転換以降も,これまで分子科学研究所電子計算機センターが共同利用研究機関の業務としてきた利用者 サービスには変更はない。現行の分子科学研究所電子計算機センター規則には,「第1条 岡崎国立共同研究機構分子 科学研究所電子計算機センター(以下「センター」という)は,センターの大型電子計算機システムを分子科学の大 型計算等のために分子科学研究所内外の研究者の利用に供するとともに,これに必要な研究開発を行い,かつ,岡崎 国立共同研究機構に置かれる研究所の研究に関する計算を処理することを目的とする。」となっている。すなわち,こ れまでも基生研・生理研の研究に関連する計算を処理することにはなっている。そのために,運営委員には各研究所 から教授あるいは助教授が参加している。2000年度の計算機利用申請は,従来通りこの3月に開かれる「運営委員会」 で審議されるが,今後,改組転換に伴い新たな申請を募集する場合は,計算科学研究センター運営委員会で新たに議 論する必要があろう。

分子研の電子計算機センターでは,助手1と技官5が「岡機構化」されないが,彼らの働きなしには新計算科学研 究センターは全く動きが取れない。したがって,分子研内の措置として「計算機室」をあらたに設置して,この計算機 室と計算科学研究センターとの密接な共同作業で,新研究センターを運営していく必要がある。しかしながら,運営諸 経費等,日常業務の上ですぐさま問題になることが生じよう。また,従来,分子研所内利用者が負担していた使用料 の取り扱いも問題になろう。

計算科学研究センターへの改組は,統合バイオセンターが3研究所の共同事業として岡崎機構に作られることに伴っ て進められることになった。他に生理学研究所・動物実験施設が動物実験研究センターに,基礎生物学研究所・アイソ トープ実験施設がアイソトープ実験センターに「岡機構化」される。MIT press は,新しく「Computational Molecular Biology Series」を発刊するにあたり“Recent developments in Molecular Biology are not evolutionary but revolutionary. Computer Science, Statistics and Mathematics are the driving forces transforming molecular biology from an informational science to a computational science. Computational Molecular Biology is a new discipline, bringing together computational, experimental, and technological methods, that is energizing and dramatically accelerating the discovery of new technologies and tools for molecular

biology.” と述べている。「分子生物学を情報科学から計算科学へ転換する」というのは少々言い過ぎとしても,生物学

における計算機利用が情報科学的側面からより広い計算科学的利用へと発展しつつあることは事実である。

岡崎国立共同研究機構・計算科学研究センターは,計算分子科学を中心に据えて,計算生物科学をも包含し,世界的に 特異な展開を実現しなければならない。そのためには,もちろん優れた研究者の結集が第一の条件であり,同時に,さら

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にいっそう高性能な計算機システムの導入も不可欠である。また,国際協力の推進が新センターの発展のために特に重要 である。

ネットワーク管理室との関係

岡崎機構・「情報ネットワーク管理室」は引き続き,岡崎機構内の情報ネットワークの維持・管理・企画に責任を持た なければならない。この「管理室」を通じて,数年間3研究所と管理局のネットワーク関係スタッフは共同作業を積 み重ねてきた。この作業の中で,各研究所・管理局で責任を持つ部分と,岡崎機構「管理室」が責任を持つ部分とが整理 されてきた。各研究所・管理局内の情報ネットワークがそれぞれの責任で運営されている現状の体制を維持し続けなけ ればならない。もちろん,計算科学研究センターは情報ネットワーク管理室と緊密な連携を持ち続けなければならない。

QCLDBの事業化

センターのスタッフが過去に積極的に参加し,量子化学者のみならず広く化学・物理学研究者から高い評価を受け ているQCLDB(Quantum C hemistry L iterature D ata B ase)の開発に対し今後も予算的にはもちろんのこと,センターの 業務として支援する体制をとり続ける必要がある。現在, 米国のいくつかの国立研究機関では,WWW(W orld W ide W eb)を通じてその機関が作成したデータベースを全世界に公開している。このような形の全世界の学会に対する寄与 は,特に生物学や素粒子・原子核の分野などではその研究機関の一つの「業績」として高く評価されている。

我が国ではデータベース作成による世界の学会への寄与は,QCLDBを除いて皆無であると言われているが,平成9 年夏からはQCLDBも,WWWを通じて登録制の公開を試験的に開始した。この公開に対する世界中の研究者からの反 響は著しく高い。この公開をハード・ソフトの両面で長期的に安定運用をするためには、正式に分子科学研究所の事業 の一つとする必要がある。1)データベース作成・管理・運用のためのハードウエア整備,2)データーベース作成のた めの謝金と事務費の確保のために早急に予算的措置をとる必要があり,平成12年度概算要求を行う予定である。もち ろんQCLDBを開発・作成しているQCDB(Quantum C hemistry D ata B ase)研究会と緊密に連携をとってこの事業は進 めなければならない。

5-1-3 将来構想検討会議

2000年1月25日に「分子科学研究所電子計算機センター将来構想検討会議」を開催した。所外からは,相田美砂子

(広島大)教授,大峰巌(名古屋大)教授,片岡洋右(法政大)教授,柏木浩(九州工大)教授,斎藤晋(東工大)教 授,斎藤稔(弘前大)教授,榊茂好(熊本大)教授,橋本健朗(都立大)助教授,中島徹(東大)助手,中野雅由(大 阪大)助手,中村恒夫(京大)大学院生,三浦伸一(東工大)助手,山西正人(東大)大学院生の13名が参加した。研 究所内からは茅所長を始め,平田文男教授,中村宏樹教授,小杉信博教授,岡本祐幸助教授,谷村吉隆助教授,神坂 英幸(総研大)大学院生,西川武志博士研究員および,電子計算機センターの岩田末廣センター長,青柳睦助教授,南部 伸孝助手,高見利也助手と技術スタッフ(西本,水谷,南野,手島)が討論に参加した。4時間以上に渉って様々な 問題が議論された。その中で主に議論された問題点を以下に整理する。

a) 電子計算機センターはどの様な利用者への計算機サービスに力点をおくべきか

センターの設立当初から原子分子の電子構造の理論計算分野を中心に,センターでなければ実行が困難な計算機の 利用が盛んに行われ,国内で唯一の分子科学計算センターとしての位置付を確立した。近年では,計算分野も拡大さ

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れ,また研究室に比較的安価で高性能のワークステーションが導入され,センターの利用のされ方及びジョブの内容 にも変化がみられる。そこで,今後電子計算機センターはどの様な利用者への計算機サービスに力点を置いて運用を 行うべきか,について委員の方々に議論して頂いた。

・設立当初,運用が上手くいっていたのは,利用目的がかなり限定されており,ユーザもその利用分野の 方が大多数であったからであろう。現在は利用形態,利用分野ともに非常に複雑に,広範になっている。 全部をサポートしようとするのは無理ではないか。この様な討論会を数回開いて,方向性を明確に決定 して行くのはどうか。

・大学の大型計算機センターでは,以前は課金係数が高いこと,計算機資源の制限(ディスク,メモリ制 限)もあり,大規模ジョブの実行が困難であった。現在では課金も安くなってきたので大型ユーザが研 究費を出して大型計算機センターを使う傾向が見られる。

・ユーザがどういう計算機の使い方をしているのかを把握しないと,環境整備はできない。外部ユーザが どの程度の環境を持っているかも把握する必要がある。それをふまえて,棲み分け等を考える必要があ る。

・安いマシンの性能が急速に上がっている。コストパフォーマンスで研究室の計算機環境と比較したらセ ンターの存在意義は低下してしまうのではないか。最初の頃のセンターでは新しい方法論を開発してい た。現在は計算機アーキテクチュアや,ソフトウェアが複雑化し,また応用プログラムも肥大化してい るので,本格的な開発は難しいが,センターは新しい方法論の確立をめざす場所でもあって欲しい。

・センターは利用目的と規模において3種類のユーザを持っている。1つは理論研究分野のトップレベル の研究を行っている(大規模計算も行う)研究グループ。1つはある程度のワークステーションを持っ ている理論研究グループ。もう1つは大規模な計算を行う実験のグループ。それぞれ無視できないので はないか。

・所内(理論研究系)が使いやすい計算環境をめざすのも1つの方向。

・計算機が1台あれば研究が遂行できるグループは,各大学の大型計算機センターで吸収できるのではな いだろうか。昔ほど計算環境が無いという緊迫感は無い。

・計算機運用の面で特徴がなければ,大規模計算ユーザはセンターから離れていく。独自性,方向性を明 確に出さないとユーザがついてこなくなるので,計算機更新時の借料の増額等,施設設備の拡充も困難 となる。

・議論の観点が,古い分子科学ユーザに特化しすぎているようだ。常に新しいユーザ,新しい分野のこと も考えることが必要である。特定分野のために計算機資源を用意するだけでなく分野の拡大も検討する 必要があるのではないか。

・新規利用者や比較的小規模な研究グループと大規模計算グループのどちらかに決めずに,両方の計算機 利用環境を考慮した運用が必要。リプレース直後のリソースが余っている時期だからこそ,大規模計算 向けの大型プロジェクトに計算資源を利用する,という試みをしても良い。ただしスケジュールが難し い。

b) 新システムをどのように運用するか

4月より新スーパーコンピュータが運用を開始するに先立ち,V PP5000(V PP)30 ノードと S GI Origin2800 256 C PU を

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どのように運用するか,並列ジョブのジョブクラス等について議論した。

・並列計算ジョブに利用できるプロセッサ数は多い方が良い。V PP なら8プロセッサ以上。将来はもっと 多数の並列が必要であろう。多数プロセッサによる効率的な応用ソフトウェアの開発には,それだけの 環境が必要。センターとしては多数の環境を用意していただけるとありがたい。

・V PP ならば16以上,S GI ならば64以上のクラスを作っていただきたい。

・名古屋大学大型計算機センターでは32CPU及び16CPUの並列ジョブが常に走っている。大規模計算利 用者にはメモリ,ディスクが足りない。ユーザ持ち込みのディスクを設置できるようなフレキシブルな 運営が必要。

・計算資源を細切れにするのは,大規模計算を行う環境として適さない。V PP を8プロセッサ程度で分割 運用するのでは意味がない。

・京大では 40PEまで普通に使える。S GI も多数を一度に使えて初めて意味がある。

またセンター側から,「少数の研究グループに最大リソースを提供する様な運用をしてもよいかどうかを判断しかね ている。思い切った運用についてどう思うか?」との問いかけに対し以下の意見を頂いた。

・4月以降の計算機リソースは確実に増加する。3月の運営委員会時点での割り振りでリソースが多少余 るのではないだろうか。その余剰分で思い切った運用するのは可能。運用当初,テスト的にやるには好 機である。

・京大で V PP を使っているが,ベクトルの効かないものはワークステーションかまたはパソコン並の性能 である。大きなメモリを使いたいだけならば,V PP を使わせるよりもパソコンクラスタを用意すべき。

・土日が大規模計算のみに占有されるようなのはきつい。月に1度くらい試行されるのならば問題ないの では。年に4,5回が限度ではないか。

・できるだけ大きく使いたい。S GI ならば128までは並列で使えるようにしてもらいたい。V PP も並列で 大きくとれるとうれしい。常に監視して適切なルールを適応して運用してほしい。

・少数の研究グループに最大リソースを提供する様な運用を行う場合は,審査の仕方,審査委員の選定も 2重化していく必要がある。従来の審査方法とは違った方法が必要である。

c ) バイオサイエンス分野の研究課題について

2000年4月には,分子科学研究所・電子計算機センターは岡崎共同研究機構・計算科学研究センターに改組される予 定である。また機構の共通センターとして統合バイオサイエンスセンターが設置される予定であり,バイオサイエン ス分野の計算機利用について議論した。

・分子研がバイオサイエンス含め生体系などの複雑系に進出していくのは基本的に良いことだと思う。機 構化によって,分子研が主導を担う形でバイオ分野での計算機利用が促進されることが理想だと思って いる。当面の移行にあたっては,センターのリソース不足等,危惧すべき点は少ないと思う。

・バイオロジの分野でもゲノムという情報処理的な用途だけでなく,次のレベルに発展しようとしてきて いる様だ。現時点のリソースでは,そこまでは難しいので,当面は分子科学分野に限った利用に限定せ ざるを得ない。近い将来,次のステップではバイオ関連の計算機利用を念頭においたシステムに変わっ ていくことになるだろう。

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・分子科学はこのままではいけない。分子科学がどういう分野に成長していくかが重要で,バイオ分野に 成長していくことは重要である。それに連れて,計算機利用分野も変わってゆく。

・生物系であれ,生体系であれ,生命系であれ蛋白質1つを扱っている限りは生命を扱っているとは思え ない,と言うのは言い過ぎであろうか。

・「生体分野の信頼のおける計算方法を開発する」ことを目標にしてはいかがか?今のバイオロジーの研究 者の利用しているソフトウェアをセンターに準備してサービスを行うだけでは研究開発とは言えない。

・ゲノム解析ではマルチプルアライメントでする人,構造予測する人,NMRの予測をする人などがいて, 情報処理を含め色々な計算機利用を行っているようだ。このような情報処理的な利用として,バイオ関 係のサービスを始めると,単にサービスをするだけのセンターになるのではないか?

d) 新しい組織及び,国際化について議論した。

・電子計算機センターにソフトウェア開発部門を作ったらどうだろうか。アメリカだと,センターには10 人くらいのドクターがいてソフトウェア開発をやっている。そういう環境でなければ応用ソフトウェア が生まれてこない。オブジェクト指向のプログラミングは並列化に適している。そういうものが普及し ないのはセンター内に開発部門が無いからでは。

・大学のセンターには人は結構いるけど目標が定まらない。センターが目標を掲げることが必要。

現在のセンターの運用方針では,外国人でも国内の研究グループに所属していれば利用できるが,国際研究集会な どで,外国人主導の利用の要請がある。すなわち,国内に研究グループを持たないが,インターネットを通じて国外 からセンターの計算機資源を利用するといった要請である。この点について委員から以下の意見を頂いた。

・現在の計算リソースでは無理だが,将来的には外国人の客員部門なども作ってはどうか。計算機センター は計算機のおもり役ではなく,サイエンスの牽引役として進展すべきである。

・方法論の国際シンポジウムを開く,というのも国際化の選択肢にあげられると思う。

今回の議論を参考にして,3月の電子計算機センター運営委員会でも議論を重ね,4月からの運用を考えていく必 要があろう。今後もこのような会議を開いて,広い世代の研究者の意見を採り入れ,センターの方向性を考える機会を 増やし運用に反映させていかなければならない。

(11)

5-2 極端紫外光実験施設の現状と将来計画 

極端紫外光実験施設(UVSOR)の組織が昭和57年度認められ翌年に世界で唯一の化学専用のシンクロトロン放射光 実験施設を設置し,共同利用実験を開始した。共同利用10年を経た平成6年度より将来計画について検討を開始した。 その議論の内容は「分子研リポート」に公表してきたが,将来計画委員会において全体の将来計画を,またその下部 組織である研究分野検討小委員会では,(1)観測系の将来計画と(2)光源系の将来計画に分けて議論をした。

平成7年度にこれらの議論を中間報告として以下の「極端紫外光実験施設の4つの将来計画」として取りまとめ, 10回にわたる将来計画委員会において承認されている。

UVSORの4つの将来計画

(1)現施設(光源,分光器,測定装置)の高度化による世界的研究成果の達成

(2)レーザー,自由電子レーザーを併用した実験技術の開発と新しい放射光分子科学の展開

(3)第3世代高輝度軟X線光源(分子研外)の利用した軟X線分光研究の遂行

(4)現UVSOR後継機として次世代極端紫外光源の建設と新研究分野の開拓

その後,具体的施策を検討してきたが,「分子研リポート’ 96」 にUVSORの将来計画−中間報告その2−を公 表して以来,将来計画に関しては進展がなく,UVSOR施設では人手難,予算難に苦しむ事態となっている。ただし, 所内,機構内で見るとUVSOR施設の将来に影響するいろいろな動きがあった。例えば,将来計画(2)としてUVSOR 施設に新しい研究分野「レーザー・放射光多光子実験」を掲げてそれを行う研究グループを置く計画があったが,結 局,分子制御レーザー開発研究センター創設に集中することになり,その結果,放射光同期レーザー開発研究部とそ のための予算が平成9年度に認められるところとなった(「分子研リポート’96」参照)。また,平成12年度からは機構 に直接,所属する統合バイオサイエンスセンターがE地区に発足し,岡崎機構の3研究所が共通の場所で共同研究す るチャンスが与えられる予定になっている。すでにUVSOR施設では平成10年度に外国人研究者による外部評価を受け, そのひとつの結論として,岡崎機構の環境を生かしてUVSOR施設で生物関連の研究も推進すべきであるとの指摘が あった(「分子研リポート’98」参照)。外部評価後,UVSOR施設では直ちに基礎生物学研究所の研究者を中心にした 共同研究を始めている。このように生物関連研究を広い意味での放射光分子科学として捉えて力を入れていくことは, 今後,統合バイオサイエンスセンター構想やUVSOR施設の将来計画において重要事項のひとつになろう。

UVSORの将来計画−中間報告その2−を公表してからも,いろいろな場で絶えず将来計画について議論したり, 意見を伺ったりしている。例えば,平成11年以降では以下の通りである。

平成11年 1月 7日(木) 所外 日本放射光学会年会,UVSOR利用者懇談会 平成11年 2月 9日(火) 所内 第33回極端紫外光実験施設運営委員会 平成11年 7月13日(月) 所内 第34回極端紫外光実験施設運営委員会 平成11年12月14日(火) 所外 学術審議会加速科学部会ヒアリング

平成12年 1月 7日(金) 所外 日本放射光学会年会,UVSOR利用者懇談会 平成12年 1月17日(月) 所内 第35回極端紫外光実験施設運営委員会 平成12年 2月 8日(火) 所内 将来計画委員会(教授・助教授全員による)

本報告書では,これら最近,開催された会議で議論された内容(将来計画に関わる年次計画)についてまとめるこ とにした。なお,これ以外に平成11年度は極端紫外光科学研究系の外部評価を実施し,極端紫外光科学の研究推進の 観点でUVSOR施設に対する意見を伺っている。これについては本リポートに別途,報告があるので,そちらを参照願 いたい。

(12)

5-2-1 年次計画の現状

これまで補正予算やCOE関連の設備予算によって将来計画 (1)が進み,分子制御レーザー開発研究センター,極 端紫外光科学研究系,UVSOR施設の三者の共同研究で将来計画(2)が進んできたが,平成10年度から始まったUV SOR運営費の15%削減やその削減を補うだけの他の予算獲得に成功していないことによって,将来計画(1)(2)は ペースダウンを余儀なくされている。ストレージリングの運転時間も年間3000時間から2600時間に削減されている。 また,放射光分子科学における6研究分野の柱を立ててUVSOR施設の共同研究及び極端紫外光科学研究系の共同研究 を活発に実施し成果を挙げているが,12テーマの要求に対して9テーマ分の共同研究しか認められていない。そのため, 放射光分子科学の進展に伴って増大している共同研究の要請(ビームタイムはもちろんのこと研究内容に応じた装置 設備面でも)への対応が不十分になってきている。

将来計画(3)では所外の大型の軟X線高輝度光源施設においてしかできない一部の分子科学研究を目指すものであ るが,それらの大型軟X線施設計画は予算規模がはるかに大きく未だに認められていない。このような他施設におけ る放射光分子科学の展開を考えるのは時期尚早である。一方,将来計画(4)のUVSOR次期リング計画はこれまでの UVSOR施設の共同研究で挙げた実績を踏まえて,さらに著しい放射光分子科学研究の質の向上を極端紫外光領域を中 心として図るものであり,予算規模も適正規模の範囲内でデザインを進めているところである。現在,日本では大型 軟X線施設計画の遅れもあってUVSOR利用者を初めとする研究者からUVSOR次期リング計画に関心が高まりつつあ る。ただし,日々の業務に追われている現施設スタッフの空き時間でしか次期リング計画の検討が行えない状況であ り,全国の研究者からの期待に充分応える体制を整える必要が生じている。

5-2-2 年次計画の見直し

現状から判断するに,将来計画(4)次期リング計画を目指すための現施設の増強を人手面,予算面で大幅に見直す 必要が出ている。平成11年度に実施した極端紫外光科学研究系の外国人研究者による評価でも極端紫外光科学のさら なる展開のためにUVSOR施設において緊急に人的資源の補強と光源加速器の高度化を行うよう勧告されている。以上 の観点から以下の三項目について早急に(可能なら平成13年度より)実現することが必須である。

(1) 光源加速器の教授グループ(教授1,助手1)の要求(平成12年度概算要求より要求中)

UVSOR施設建設当初,光源加速器の維持業務の必要性から最小限の加速器科学の研究者を所内に擁することにし, 助教授1助手1を配置した。建設後の10年間,助教授グループは維持業務に加えて真空紫外域自由電子レーザー利用 に向けての基礎研究においてめざましい成果を上げることもできた。しかし,建設後10年を経たあたりから深刻な老 朽化が始まり,維持業務が年々増え,現在,助教授1助手1では対応し切れない事態になっている。さらに,光源加 速器の維持は言うまでもなく,世界的な放射光源加速器の進歩に遅れをとらないようにするためには現施設の性能向 上のための開発研究が必須であり,さらには近い将来,現施設を更新する際の光源加速器の設計を進めておく必要に 迫られている。

UVSOR施設のような大型設備では継続性が重要であり,将来計画(1),(2),(4)に関わる光源加速器分野の組織 の補強は緊急性が非常に高い。特に世界のどの施設を見ても,維持業務に加えて開発的な業務を行う加速器科学の教 授グループを擁している。それは加速器は加速器科学の研究者が開発するものであり,さらに,建設後も研究者自身 が開発的研究を継続して行い,性能を向上(高度化)させるとともに,老朽化による維持が難しくなる20∼30年後 を目指して更新計画を立てる必要があるからである。このように長期的ビジョンに基づいて加速器を育てていくため

(13)

には,分子研の他の施設とは異なり,教授職が必須である。また,加速器を有している研究所は国内でも非常に限ら れており,加速器科学の研究は助手に採用されてから始める場合が多く,教授あるいは助教授に院生という体制では 加速器科学の研究者を養成するどころか,研究の道具である加速器の維持さえも困難となる。そのため,光源加速器 関係では教授グループ,助教授グループ共に最低限,助手1を加えることが必要である。

UVSOR施設完成後17年目に入っている現在,時代のニーズに応えて新しい光源加速器の設計ができないようでは世 界の学問の進歩に取り残されてしまう。学術審議会加速器科学部会の報告(「加速器科学関係機関等における今後の連 携・協力の在り方について」平成11年4月9日)にもあるように,加速器科学は科学技術や工業の発展と密接に関連 している。本施設もその研究拠点として加速器科学の発展に積極的に貢献することが期待されている。さらに,分子 科学のような先端的な物質科学基礎研究から応用研究・産業利用まで多様な放射光利用のニーズがあるため,全国共 同利用型の最先端放射光源施設と特定目的指向型の比較的小規模な光源施設の整備が必要であるとの報告もあり,全 国共同利用型の最先端放射光源施設に位置づけられてきた本施設の整備と将来の新しい展開のためにも加速器科学の 研究者の増強,特に教授グループの新設が必須である。

(2) UVSOR施設教官の役割分担と再編(平成12年度概算要求より要求中)

国内外の放射光施設ではいずれも加速器科学の研究者による光源加速器の維持及び開発(性能向上,高度化)と放 射光利用の研究者による観測システムの維持及び開発を行っている。これまでUVSOR施設では前者については助教授 1助手1を配置し,後者については助教授3助手2(客員助教授1を含む)を配置してきたが,施設の設立時より今 日までいろいろな局面での自由度を持たせる意味で助教授の役割をはっきり分けることはしてこなかった。しかし,そ の後の加速器科学に基づく放射光科学の大きな発展に伴い,専門分野が細分化され,それぞれの細分化された分野で より専門的な研究者が育つようになった。現状として,施設内で専門分野に偏りが生じており,共同利用研究者に対 して細分化された研究分野の専門的な支援が行えないなどの障害が出ている。学問の進歩に合わせて,より専門的な 研究を行っていくためには,以下に示すように,放射光利用科学の研究者(分子研の場合は分子科学者)を配置する 研究部,放射光用の分光器を開発する光学研究者を配置する研究部,加速器科学の研究者を配置する研究部に再編す る必要がある。

・光物性測定器開発研究部 (施設内振替)助教授1,助手1

・光化学測定器開発研究部 (施設内振替)助教授1,助手1

・放射光分光器開発研究部 (施設内振替)助教授1(客員)

・電子ビーム制御研究部 (施設内振替)助教授1,助手1

・光源加速器開発研究部 (新設)   教 授1,助手1

光物性測定器開発研究部と光化学測定器開発研究部では,それぞれ固体の光物性と気体分子の光化学に関する放射 光利用研究のための測定装置を開発するとともに,施設外研究者の施設利用(共同研究)を支援する。また,客員教 官の所属する放射光分光器開発研究部では,主に測定器に分光して放射光を供給するための分光器を開発する。電子 ビーム制御研究部では,光源加速器内を運動する電子ビームの物理を研究すると共に,電子ビームの高度な制御によっ てレーザー同期技術や自由電子レーザー利用技術に対応できる安定した高輝度放射光を供給する。また,光源加速器 開発研究部では,現施設の光源加速器(電子蓄積リング)と挿入光源(アンジュレータ等)の維持及び性能向上のた めの開発研究を行うと共に,次期リング設計の中心的役割を果たす。

(14)

(3) 光源加速器の高度化計画の推進

平成10年度より施設予算が15%カットされたことによって,将来計画(1)である現施設の upgrade に関する年次計 画が中断し,深刻な事態になっている。特に入射器には手が付けられないまま,時間が経ってしまった。また,所外 の高輝度軟X線光源計画の遅れを見る限り,将来計画の最終目標である分子研独自の次期リング建設が当初計画通り に進むことは非常に困難であると判断される。このような次期リング計画の遅れをカバーするために,以下のように, 現施設を大きく変更することなく適度の予算規模での入射器の性能向上,挿入光源の増強,高輝度化・高強度化を段 階的に行う必要がある。当初の年次計画と高度化計画を加えた現在の年次計画の比較を図1に示す。

(1)入射器の性能向上(RF高性能化,直線加速器高性能化,シンクロトロン改良)

(2)現施設の挿入光源3カ所の内,2カ所の挿入光源・ビームラインを高度化

(3)第1高輝度化・高強度化。ラティス改造による短直線部4ヵ所増設

(4)第2高輝度化・高強度化。挿入光源6カ所(長直線4,短直線2)を持つ施設へ 本高度化計画(1)∼(4)は現施設を大きく

変える計画ではないので,老朽化が深刻にな る前にできるだけ早く段階的に実施していけ ば,技術的に大きな問題はない。今後,光源加 速器の研究者の増強を行い,細部について検 討する必要があるが,高度化計画(1)∼(4) の段階で,各コンポーネントを次期リングで も利用できるように工夫することも可能であ る。このように新しい施設計画を走らせる前 に高度化計画を実現することは,より現実的, より効率的な性能向上を可能とする。

世界的には高輝度,高強度の放射光を実現 するために,UVSOR施設と同程度の中規模共 同研究施設は単なる老朽化対策を施すのでは なく,それぞれ新たに放射光リングを建設し て新しい成果を発表し始めている。国内では 残念ながらこのような形での施設更新計画が

認められていない。また,短パルス性,干渉性等にすぐれた通常のレーザー光源の特性をX線領域で実現しようとす る全く新しい考えで大型の自由電子レーザー施設計画も始まっている。現在,我が国では放射光の全国共同利用施設 としてUVSOR(0.75 GeV ) 以外にSPring−8(8GeV )と高エネルギー加速器研究機構の Photon F actory(2.5, 3.0 GeV ) の二施設があるだけである。利用者に供給できる光のエネルギーはこれら三施設で大きく異なっており,いずれも放 射光科学として欠かすことのできない施設である。また,全国共同利用施設として計画中の東京大学と東北大学によ る高輝度軟X線光源(それぞれ 1.6 GeV ,1.8 GeV )との重なりもほとんどない。放射光利用研究として大型施設を建 設すれば中型・小型施設が不必要になるものではなく,施設の大きさ(ビームエネルギーの大きさ)によって最も有 効に利用できる光のエネルギー(波長)が異なる。図2にこれらの役割の違いを概念的に示した。中規模放射光施設 としてUVSOR施設が最も有効に提供できる極端紫外光は分子との相互作用が非常に大きく,分子科学を中心とする物

当初の年次計画

将来計画( 1)現施設の upg ra de _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ |

将来計画(2) F E L , las er 併用、新しい展開

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ |_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

将来計画(3) 高輝度軟X線光源( 他施設) 分室計 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

将来計画( 4)次期

|_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

1 9 9 3 1 9 9 5 1 9 9 7 1 9 9 9 2 0 0 1 2 0 0 3 2 0 0 5 2 0 0 7 2 0

1 9 9 4 1 9 9 6 1 9 9 8 2 0 0 0 2 0 0 2 2 0 0 4 2 0 0 6 2 0 0 8

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

1 0年 2 0年 2 5年

現在の年次計画

将来計画( 1) 高度化計画

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

将来計画(2)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ |_

将来計画

図1 当初の年次計画と現時点での年次計画(高度化計画を含む)

(15)

質科学研究に不可欠である。UVSOR施設におけるこれまでの利用研究をさらに強化し,世界的な学問の動向に立ち後 れないようにするためには,緊急に上記UVSOR高度化計画を推進し,極端紫外光領域を中心とする高輝度,高強度の 放射光利用研究,短パルス性,可干渉性の自由電子レーザーの利用研究を実現する必要がある。

SPring-8

PF

(注)

光のエネルギー

る さ

U V S O R

図2 全国共同利用放射光施設(計画中のものを含む)の位置付け(概念図)

(注)PFの将来計画としてPF更新計画(詳細不明∼2010年を目標), AR高度化計画,X線FEL計画の三つがある。

(16)

5-3 岡崎国立共同研究機構の将来構想とE地区への統合バイオサイエンスセンターの設置

5-3-1 統合バイオサイエンスセンター設置計画検討の経緯

(1) これまでの経過

岡崎国立共同研究機構は,これまで機構を構成する分子科学研究所,基礎生物学研究所及び生理学研究所の3研究 所がそれぞれの将来構想のもとで組織の整備を行い,国際的に卓越した研究機関として着実に研究を推進してきたが, 機構全体としての将来構想を検討する取り組みが遅れていた。しかしこの数年,E地区利用の課題もあって,機構と しての将来構想の必要性の認識が高まり,平成8年3月に,岡崎国立共同研究機構将来構想委員会の下にワーキング グループを設置し,このワーキンググループを中心に,平成9年6月に「岡崎国立共同研究機構将来構想」がまとめ られた。その内容は,機構を構成する3つの研究所独自の将来計画と共同歩調をとる形で,「分子生命体科学共同研究 推進センター(仮称)」のE地区への設立を提案するものであった。それは,i) 近年の学問の新しい発展に伴い,物理 学及び化学と生物学・生命科学にまたがる研究領域が出現し,ii) 3研究所の研究者間の交流が自然な流れとして増大 している現状と,iii) 生体の機能発現を個体や細胞レベルのみならず,分子のレベルで解明しようとする研究が活発に 行われ,分子科学研究所との協力の必要性が深く認識されるようになってきたこと,vi) 分子科学研究所においても, 新しい機能を有する分子物質の探索・分子設計に関連して,蛋白質をはじめとする生体分子の構造と作用機構に関す る分子レベルでの研究が盛んになりつつあることが主な理由であった。こうした機構内での動きを受けて,平成 10 年 度には,E 地区で行う研究の柱の一つと位置付けされる脳研究に関連する組織が生理学研究所に認められ,平成 11 年 度には,この分子生命体科学共同研究推進センター構想の第一段階として,基礎生物学研究所所属の研究施設として 生命環境科学研究センターの設置が認められた。

(2) 分子生命体科学共同研究推進センター構想の見直し

上述のように,平成10年12月の大蔵省内示を受けて,「生命環境科学研究センター」の準備作業に着手するとともに, 分子生命体科学共同研究推進センター構想の見直しを開始した。特に,3研究所のこれまでの研究成果を基礎として, 今後展開すべき研究課題の中で,学術的・社会的に特に要請されている分野の検討を行った。

その結果,新設の生命環境科学研究センターの研究課題とともに,時間軸に沿った生命現象(時系列生命現象)研 究の重要性がクローズアップされてきた。更に,バイオサイエンス研究に新たな手法と視点を提供する戦略的方法論 の重要性が再確認された。こうした検討の結果,分子生命体科学共同研究推進センターという名称が,センターの内 容を正確に表現していないとの認識に至った。最終的に,「統合バイオサイエンスセンター」の名称が採用されること になった。

以上のような研究内容・課題の見直しと平行して,3研究所と機構が共同・協力する形で, i) 知覚と生体内情報伝達, ii) 地球環境と生命,iii) 限界を越える構造・機能計測,iv)生体内 NO の化学と生理機能に関するシンポジウムが開催さ れた。こうした企画は,生命環境研究を中心にしながらも,統合バイオサイエンス研究としての位置付けの下に,3 研究所の共同作業として行ってきた。

以下には,「統合バイオサイエンスセンター」構想で提案している「時系列生命現象」,「戦略的方法論」及び既設の 生命環境科学研究センターを統合した「生命環境」の相互の位置づけと,統合バイオサイエンス関連研究との関係を 以下に示した。

(17)

戦 略 的 方 法 論

数理科学 分子科学 物理化学 コンピューター科学 ゲノム科学

植物科学

環境生理学

脳科学

生 命 環 境 時系列生命現象

5-3-2 統合バイオサイエンスセンター設置の必要性

生命現象の本質を,分子のレベルからその集合組織体としての生命体に統合する視点から解明しようとするバイオ サイエンス,すなわち統合バイオサイエンスは,新たな技法の導入により飛躍的に発展を続けており,21世紀に向け て,医療,食糧,環境等の分野で豊かな応用成果を人類にもたらすものとして期待されている。バイオサイエンス研 究については,応用に結びつける研究が急がれていることはいうまでもないが,その基盤としての長期的視野に立っ た学術研究を着実に推進していくことが重要であり,これらの研究を通じて若手研究者を育成していくことは,大学 共同利用機関である本機構の任務である。

癌,先端医療研究等を含むバイオサイエンス分野における重要課題の研究推進が強く望まれるなか,本機構では,生 理学研究所では脳,基礎生物学研究所では発生・分化・再生等の時系列生命現象及び生命環境,更に分子科学研究所 では蛋白質を中心とする生体高分子の理論的な取り扱いに関する基礎研究を展開し,数多くの研究実績を挙げてきた。 本機構では,今回,分子科学研究所,基礎生物学研究所及び生理学研究所が総力を挙げて協力し,これらのバイオサ イエンスの研究課題について,発生・分化・再生等の時系列生命現象研究を中心に分子レベルから統合的に取り組む こととし,我が国のバイオサイエンス研究において,本機構が研究推進の中核的役割を担うものと位置付けている。 このように,本機構の3研究所が共同して発生・分化・再生等の時系列生命現象を中心とする新しい生命科学研究 に取り組むために,機構共通の研究施設として統合バイオサイエンスセンターを設置し,これら研究を格段に推進し ようとするものである。

5-3-3 統合バイオサイエンスセンターの研究目的

統合バイオサイエンスセンターは,発生・分化・再生等の時系列生命現象を中心とする生命科学研究を,分子レベ ルからその集合組織体としての生命体へと統合する視点から行うことを目的とする施設である。化学・物理学におけ る最新の構造論・反応論における研究成果・研究手法を大胆に取り入れ,生体機能分子構造の可視化技術やシミュレー ションを駆使し,21世紀のバイオサイエンス研究の潮流を主導的に形成することを目的としている。異なる学問分野 からの研究者の流動的参入を得て,各レベルからの共同研究を推進するために,扱う研究テーマは5年を目途に弾力 的・流動的に見直し,常に学問的・社会的要請を先取りした独創的研究を推進する。分子科学・基礎生物学・生理学 という異なる領域における最先端の研究をリードする岡崎国立共同研究機構の3研究所の英知を結集し,本分野にお ける国内の共同研究推進の拠点となり,国際的にもバイオサイエンス研究をリードする先端的かつ基盤的な研究セン

(18)

ターとして発展することを目的としている。

5-3-4 統合バイオサイエンスセンターの構成と研究内容

(1) 研究推進上の特色

統合バイオサイエンスセンターは,最先端の分子レベルでのバイオサイエンスを推進する施設である。革新的な 方法論とシミュレーションを駆使し,生命原理を明らかにすることを目的としている。発生・分化・再生等の時系列 生命現象,生命環境,革新的な方法論の開発といった分子レベルから生体システムへと統合する視点から研究を行う バイオサイエンスの展開に当たっては,分子科学・基礎生物学・生理学という異なる領域における最先端の国内研究 をリードする3研究所の英知を結集し,センターに所属する研究者と3研究所の研究者間の活発な研究交流・情報交 換・合同勉強会の開催など,分野にとらわれない形態での研究推進が求められる。特に,従来のバイオサイエンスに 研究のバックグランドを持つ研究者にとっては,化学・物理学的発想で研究を進める関連領域の分子科学者と共同研 究を推進することは,当該領域研究に新たな広がりを持たせ,これまでにない研究展開の可能性を与えるものとなる。 逆に,分子科学に研究の本籍を置く研究者にとって,分子生物学・構造生物学・生理学などの研究者の問題意識や研 究手法を学ぶことで,研究を一層深いものにする大きな助けとなる。このため,可能な限り研究施設は分野の垣根を 越えて共通に設置する。現在,分子科学研究所に所属する電子計算機センターが,これまで分子科学研究に果たして きた役割・機能に加えて,バイオサイエンス推進のための計算機環境を整備し,岡崎国立共同研究機構の直属の研究 施設としての計算科学研究センターへと改組されることは,こうした3研究所の決意の現れでもある。もちろん,3 研究所にはそれぞれの学問分野における国内研究の拠点(COE)としての独自の研究課題に対しても,常に世界をリー ドする成果が要求されていることは言うまでもない。こうした観点から,以下に述べる様に3つの大研究部門のもと に,幾つかの研究課題を推進することを計画した。

(2) 大研究部門の設置 1)時系列生命現象

多細胞生物は,受精後瞬く間に姿形を変えながら生物固有の形態を獲得する。生物個体の生涯における形態変化の 共通性や種による特異性を記載し,個体の発生原理を明らかにすることは生物学の最も重要なテーマのひとつである。 近年,ショウジョウバエを用いた遺伝学から,形態形成を制御する遺伝子が次々に単離され,それらの多くは,ヒト も含めた多様な動物種に共通して用いられていることが明らかになってきた。生物における普遍的な発生原理の解明 は,生物多様性の解明と表裏一体であり,生物進化の謎を解く鍵となると考えらる。従って,このような問題を学際 的基盤のもとにアプローチすることが21世紀の新しい生物学が目指すべき方向である。発生を分子レベルで理解する ことは,それぞれに特殊化し個体を獲得した細胞で特異的に発現する遺伝子を明らかにし,その組織特異的な発現の 制御機構を探ることである。しかし,現在では組織特異的遺伝子発現を制御するDNA配列には多くの因子が複雑に相 互作用していることがわかっている。発生の仕組みを理解するためには,これら細胞の個体を決定する遺伝子が,発 生過程のいつどこで発現しどのように他因子と相互作用してその機能を発揮するのかを遺伝子プログラムとして理解 する必要がある。そのためにはマイクロアレイ法など最新技術の導入や発現プロフィールから生物学的意味を抽出す るための生物情報学の協力は不可欠である。

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